猫のゴロゴロ音の意味とは?喉を鳴らす仕組みと理由、癒しの効果を論文で解説
私たちの屋号「ゴロゴロ不動産」の「ゴロゴロ」は、猫が喉を鳴らすあの音からいただきました。膝の上で愛猫が響かせ始めると、こちらまで肩の力が抜けていく、低くてあたたかい振動。猫と暮らす飼い主さんなら、毎日のように聞いている音だと思います。
では、猫はなぜゴロゴロと喉を鳴らすのでしょうか。結論を先に言うと、ゴロゴロ音は「リラックスのサイン」だけではありません。甘えや要求のコミュニケーションとして、ときにはストレスや痛みを抱えているときの自己安定として、猫はこの音をさまざまな場面で使い分けています。さらに研究の世界では、ゴロゴロ音の振動そのものに、猫自身の骨や筋肉を癒す働きがあるのではないかという説まで真剣に検討されてきました。
猫暮らし研究所の第1回は、屋号の原点でもあるこのテーマ。「なんとなく知っている」ゴロゴロ音の意味を、論文をたどりながら「ちゃんとわかった」に変えていきます。
猫のゴロゴロ音はどうやって鳴っている?仕組みと周波数
そもそもあの音は、どこから出ているのでしょうか。
現在もっとも有力とされる説では、ゴロゴロ音は喉頭(こうとう)まわりの筋肉が呼吸に合わせてリズミカルに収縮し、声帯を小刻みに振動させることで生まれると考えられています。鳴き声のように息を吐くときだけでなく、吸うときにも鳴り続けるのがゴロゴロ音の特徴で、だからあんなに途切れなく響くのですね。人間の耳で十分聞き取れる音域で、抱き上げれば手のひらに振動として伝わってくるのも、この音の心地よさの理由のひとつです。実は「完全に解明された」とは言いがたく、いまも研究が続いている現象です。
この振動はかなり低い周波数の低周波で、アメリカの生物音響学者エリザベス・フォン・ムゲンサーラー氏が2001年に米国音響学会誌で発表した研究によると、イエネコのほかチーターやピューマ、オセロットなど44頭のネコ科動物を録音・分析した結果、いずれも25〜150Hz(ヘルツ)の帯域に強い成分を持っていました。とくにイエネコを含む複数の種では、25Hzと50Hz付近に音が集中していたといいます。この数字、のちほど大事な意味を持って戻ってきます。

猫がゴロゴロと喉を鳴らす理由|リラックスだけではない
次に、どんなときに鳴らすのか。シーンごとに見ていくと、ゴロゴロ音が一種の「言葉」であることが見えてきます。
いちばん身近なのは、やはりリラックスしているとき。飼い主さんに撫でられているとき、膝の上で目を細めているとき、安心と満足のなかで響くゴロゴロは、幸せのサインと受け取ってよさそうです。この音を聞くとこちらまで癒される、と感じる飼い主さんが多いのも、きっとこの場面でしょう。
次に多いのが、甘えや要求のゴロゴロ。ごはんがほしいとき、遊んでほしいときに、鳴き声と組み合わせて喉を鳴らす猫は多いものです。もともと子猫は生後数日からゴロゴロ音を出し、母猫とのコミュニケーションに使っていると考えられています。授乳中のふみふみとセットのゴロゴロは、その名残ともいわれます。成猫が人に向けて鳴らすのは、いわば子猫時代の「伝わる手段」を私たちに応用してくれている、ということかもしれません。
そして見落とされがちなのが、ストレスや痛みを感じているときのゴロゴロです。意外に思われるかもしれませんが、猫はけがをしたとき、強い不安や緊張を感じているとき、出産のとき、さらには命の終わりが近いときにも喉を鳴らすことが知られています。動物病院の診察台の上でゴロゴロいっている猫は、ご機嫌なのではなく、自分を落ち着かせようとしている可能性があるのです。「ゴロゴロ=うれしい」と単純に言い切れないのは、このためです。

「ゴロゴロは自己治癒のしくみ」という説|論文が示すこと
機嫌がいいときにも、つらいときにも鳴らす。この一見矛盾した行動に注目したのが、先ほどのフォン・ムゲンサーラー氏でした。
鍵は周波数です。彼女の測定でゴロゴロ音の中心だった25Hzや50Hz前後の振動は、人間の医療の世界で骨の成長や骨折の治癒を促すために使われてきた振動刺激の周波数帯と、ほぼ重なります。20〜50Hz前後の振動が骨密度を高めることは、ニワトリやヒトを対象にした研究でも報告されてきました。
猫は1日の大半を寝て過ごす動物です。じっとしている時間が長ければ、本来は骨や筋肉が衰えやすいはず。そこで立てられたのが、「ゴロゴロ音は、動かずにいながら自分の体に振動刺激を与え続ける、省エネ型のセルフメンテナンス機構ではないか」という仮説です。痛みや不安の場面でゴロゴロが出るのも、「自分を落ち着かせ、治すための行動」と考えると筋が通ります。猫が犬にくらべて骨折の治りが早いといわれるのも、この説と合わせて語られることがあります。
つまりあの音は、感情の表現であると同時に、猫が自分の体を整えるためのしくみでもあるかもしれない、ということです。

飼い主にも効く?ゴロゴロ音の癒し効果と人の健康
ゴロゴロ音の恩恵は、どうやら猫だけのものではなさそうです。
ミネソタ大学脳卒中研究所のアドナン・クレシ博士らが約4,400人を約20年間追跡したデータを分析した研究では、猫を飼ったことのある人は、飼ったことのない人にくらべて心筋梗塞で亡くなるリスクが明らかに低い、という結果が出ました。研究チームは、猫と過ごすことで心理的なストレスが和らぐことが背景にあるのではないかと考えています。
また、動物とのふれあいに関する研究では、ストレスホルモンであるコルチゾールの低下や、愛着ホルモンと呼ばれるオキシトシンの上昇が報告されています。低い振動音が副交感神経を優位にし、心を落ち着かせるという見方もあります。膝の上のゴロゴロに身をゆだねているとき、私たち人間の体の中でも、目に見えない変化が起きているのかもしれません。
ひとつ正直にお伝えしておくと、これらは「相関」を示した研究であって、「猫を飼えば必ず健康になる」と証明されたわけではありません。猫好きな人がもともとストレスに強い気質という可能性もありますし、ゴロゴロ音そのものの治癒効果も、まだ仮説の段階の部分が多く残っています。それでも、世界中の研究者が大真面目にこの音を録音し、周波数を測り、論文にしてきたという事実そのものが、なんだか愛おしいと思うのです。
ゴロゴロ音を出さない猫もいる?気をつけたいサイン
ところで、「うちの子はあまりゴロゴロいわないけれど大丈夫?」という声もよく聞きます。
結論からいうと、ゴロゴロ音には大きな個体差があります。性格がひかえめな猫、音がごく小さくて耳を近づけないと聞こえない猫もいて、鳴らさないこと自体は異常ではありません。その子なりの表現の仕方だと受け止めて大丈夫です。
注意したいのは「変化」のほうです。いつもよく鳴らしていた愛猫が急に鳴らさなくなった、逆に食欲がないのにゴロゴロいい続けている、呼吸が苦しそうなのに鳴っている──そんなときは、痛みや病気が隠れているサインかもしれません。様子がいつもと違うと感じたら、早めにかかりつけの獣医師に相談してください。
ゴロゴロ音は、日々の健康チェックの手がかりにもなる音なのです。

まとめ|ゴロゴロのそばで暮らすということ
なんとなく「癒されるなあ」と聞いていたあの音は、喉頭の筋肉が生む低周波の振動で、リラックスにも甘えにも自己安定にも使われる多義的な言葉であり、骨を育てる周波数を含んでいて、猫自身の回復を支えているかもしれず、そばにいる人間の心臓まで守ってくれているかもしれない。「なんとなく知っている」が、少し「ちゃんとわかった」に近づいたでしょうか。
ゴロゴロ不動産という屋号には、「猫も人も、安心してゴロゴロできる住まいを」という願いを込めています。25Hzの小さな振動が響く暮らしを、四日市で一緒につくっていけたらうれしいです。
【参考文献】
von Muggenthaler, E. (2001). The felid purr: A healing mechanism? The Journal of the Acoustical Society of America, 110(5), 2666. / Qureshi, A. I. et al. (2009). Cat ownership and the risk of fatal cardiovascular diseases. Journal of Vascular and Interventional Neurology, 2(1), 132–135. / Rubin, C. ほか、低周波振動刺激と骨密度に関する一連の研究(1990年代後半〜)
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